研究室についてABOUT US

研究室の特徴

「脳循環代謝研究室の土台と3本柱」

研究面では、九州大学ではラットを用いた動物実験で生理学的手法による基礎研究が主に行われてきていましたが、近年は遺伝子改変マウス脳や培養細胞を対象に分子細胞生物学的や病理組織学的手法による基礎研究を用いて、脳梗塞発症後の組織修復と機能回復のメカニズムを探索しています。また急性期脳卒中患者のデータベースであるFukuoka Stroke Registry(FSR)を構築し、大学ならず関連施設においても多数の脳卒中症例の臨床情報に基づいた臨床研究がおこなえるシステムを整備してきました。このFSR研究から脳梗塞の病態に関連する多くの因子を同定し報告してきています。そして国立循環器病研究センターにおいても多施設共同研究を推進しており、九州大学と国立循環器病研究センターでお互い切磋琢磨して脳卒中の病態解明や新規治療法の探索・開発にむけて努力し続けてきています。

脳循環代謝研究室のメンバーは年々増加してきており、関連施設もしだいに拡充してきました。また脳血管内治療や回復期リハビリを担える体制を整えてきています。今後も脳循環代謝研究室は、代々受け継がれてきました「内科全般を幅広く診る」「心理・社会背景も診る」姿勢をもとに、脳卒中の幅広い領域で高い専門性をもって診療にあたっていきます。

2022年度 研究室の動向

2022年4月に熊井(H9)が白十字病院脳・血管内科診療部長から同院副院長に、清原(H20)が九大病院臨床助教から同院助教に昇進し、また緒方(H9)が福岡大学医学部脳神経内科准教授から福岡赤十字病院脳神経内科部長に、古田(H20)が九大医工連携・健康長寿学講座の助教から九大病院助教に異動となった。また国立循環器病研究センター病院に出向していた木村(H26)が帰福した後に九州労災病院に再出向した。そしてこれまで研究室に多大な貢献をしていただいた前田(H16)と松木(H20)が研究室人事より離れ新たな道を進むこととなった。

脳梗塞超急性期の標準治療としてrt-PA静注また脳血管内カテーテルによる血栓除去療法が確立し、2022年度も当研究室の多くの関連施設が一次脳卒中センター(primary stroke center: PSC)また血栓回収脳卒中センターに準じたPSCコア施設に脳卒中学会から認定された。地域の脳卒中超急性期〜急性期の医療体制の充実のためにも、脳卒中や神経救急疾患の診療を目指す若手医師の養成を、さらに脳神経血管内治療専門医(2022年度:研究室内に9名在籍、研究室OB 3)の養成をも継続していきたい。一方で、202010月に脳卒中・循環器病対策推進基本計画が閣議決定され、2021年度に福岡県においても脳卒中・循環器病対策推進計画の策定が開始された。これまで主に脳卒中急性期診療体制の充実・均てん化が主眼となってきたが、今後は1)脳卒中・循環器病の予防や正しい知識の普及啓発、2)保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実、3)脳卒中・循環器病の研究推進を達成することで、健康寿命の延伸と脳卒中・循環器病の年齢調整死亡の減少を目指すこととなっている。特に患者・家族に対する情報提供のために「脳卒中相談窓口」が2022年度から主にPSCコア施設に設置されるようになった。まだ相談窓口の業務については試行錯誤の状態の施設が多いのが実情であるが、今後は急性期また回復期関連施設において多職種の密接な連携による実態を伴った脳卒中相談窓口を普及させていきたい。また脳卒中急性期加療や再発予防のみならず、回復期リハビリテーションや神経・老年疾患など周辺領域の診療へも幅を広げて、認知症・てんかん・パーキンソン病などを始めとする神経疾患に対する診療体制をも引き続き整えていきたい(2022年度:リハビリテーション科専門医6名、神経内科専門医27名、老年科専門医26名、認知症専門医8名)。そして臨床業務が多忙な中、関連施設に出向中の若手メンバー(鶴崎[H20]、芝原[H23][3]、坂井[H24]、古賀[H26]、池内[H30])は英文で症例を報告している。

研究面では福岡脳卒中データベース(Fukuoka Stroke Registry: FSR)を用いた臨床研究と、マウス脳虚血モデルや培養細胞を用いて組織学的・分子生物学手法による基礎研究を継続している。2007年に開始したFSRには2019年9月末には前向き追跡として17,000超の症例が登録された。FSRでの新規症例登録を2019年9月末で一旦終了したが、既登録症例の追跡調査を継続するとともに、今後は既存のFSRデータと画像情報など他の臨床情報との融合や、DPC情報やサマリー情報をもとに脳卒中患者のデータを後ろ向きに収集していきたい。FSRを用いた2022年の論文発表は2報(福田[H4]、大屋[H25])であるが、大学院生を中心に関連施設等への出向者もFSRデータを用いて臨床疫学研究を継続している。2022年度は大屋(H25)がFSRデータを用いて若年成人と非若年成人による脳梗塞の病因学的特徴の差異に関する研究(PLoS ONE誌, 2022年)で学位を取得した。また中西(H22)は衛生・公衆衛生学(久山町研究室)での研究成果(日本人地域住民における脳卒中5年再発リスクの半世紀にわたる長期の時代的推移:Journal of Atherosclerosis and Thrombosis、2022年)をもとに学位を取得し、同門会奨励賞を受賞した。また九大病院や関連施設での臨床研究をもとに若手・中堅メンバーは英文原著(生野[H15]、徳永[H20]、北村[H24]、木村[H26])を報告するとともに、木村は米国心臓学会(AHA)の2022年最優秀脳卒中研究者賞、第47回日本心臓財団草野賞、また同門会賞奨励賞を受賞した。そして研究室出身の国立循環器病研究センター病院副院長の豊田(S62)は急性期再灌流療法の発達により虚血性脳卒中の機能転帰はこの20年間で改善してきているが、出血性脳卒中の機能転帰は明確な改善が認められていないことをJAMA Neurol誌に報告し同門会賞功労賞を受賞した。基礎研究では、脳血管周皮細胞に中心としたneurovascular unitに関する研究や脳梗塞後の内因性組織修復と機能回復のメカニズムに関する研究などを継続している。高島(H25)は血糖低下作用を伴わない極低用量のSGLT2阻害薬をマウスに脳梗塞を作製する前に投与することによって脳血管周皮細胞を保護することでマウス脳梗塞の傷害を改善することを実験的に証明してCommunications Biology誌(学位論文)に報告し、同門会賞特別賞を受賞した。今後も臨床研究と基礎研究を推進して、将来的に脳梗塞後遺症を軽減しうる新規治療法の開発に結びつけていきたいと考えている。

2021年度の研究室の動向

2020年度の研究室の動向

2019年度の研究室の動向