鴨川徳彦先生(H25)の研究成果がStroke誌に掲載されました!

国立循環器病研究センターに出向している鴨川徳彦先生(H25)が、正確な発症時刻が不明の脳梗塞患者において、症状の発症様式(wake-up strokeとnon-wake -up stroke)によるrtPA血栓溶解療法の有効性と安全性について、日本国内の多数の医療機関が参画したTHAWS試験と海外の3つの臨床試験(WAKE-UP試験・EXTEND試験・ECASS-4試験)の4つの臨床試験を統合したデータの解析結果を論文発表されました。

Thrombolysis for wake-up stroke versus non-wake-up unwitnessed stroke: EOS individual patient data meta-analysis

朝の起床時に症状を自覚する起床時発症脳梗塞(wake-up stroke)と、発症が目撃されておらず、かつ意識障害や失語症などのために症状発症時刻が確認できない脳梗塞(非起床時発症時刻不明脳梗塞)(non-wake-up unwitnessed stroke)では、少数の観察研究から神経学的重症度や画像所見、臨床経過に違いがあることが示唆されています。しかしこれまで両者が異なる集団としてrtPA血栓溶解療法の効果を検証した報告はありませんでした。

そこで鴨川徳彦先生はEvaluation of unknown Onset Stroke thrombolysis trials (EOS)研究の個別診療情報を用いて、発症時刻不明の脳梗塞患者の発症様式による相違と臨床転帰の関連について検討されました。なお、以前にEOS研究から発症時刻不明の脳梗塞患者に対するrtPA血栓溶解療法の有効性が発表されていますが(Lancet 2020;396:1574-1584)、今回の研究は、EOS研究の個別診療情報を用いたサブ解析研究となっています。合計634例のデータが解析され、そのうちwake-up strokeが542例、non-wake-up unwitnessed strokeが92例でした。主要評価項目は脳梗塞発症90日後の機能転帰良好(modified Rankin Scale 0-1)です。

その結果、

・wake-up stroke群ではrtPA血栓溶解療法によって有意に機能転帰良好となる可能性が高くなった(多変量調整OR 1.47, 95%CI 1.01-2.16)。

・wake-up stroke群では症候性頭蓋内出血が実薬群で1.8%、対照群で0.3%であり、死亡は実薬群で4.0%、対照群で1.9%であった。

・non-wake-up unwitnessed stroke群では症例数が少ないためrtPA血栓溶解療法と機能転帰良好との間に有意な関連は認められなかったが (多変量調整OR 1.76, 95%CI 0.58-5.37)、対照と比較してrtPA血栓溶解療法の転帰改善傾向が示唆された。

・non-wake-up unwitnessed stroke群では症候性頭蓋内出血と志望が実薬群で1例ずつ生じたが、対照群ではいずれも認めなかった。

そのため今回の検討から、rtPA血栓溶解療法はwake-up strokeまたnon-wake-up unwitnessed strokeのいずれの発症様式においても有効かつ安全であることが示唆されました。ただし今回の検討には、広範な脳梗塞の病巣や重篤な神経障害を有する患者、また機会的血栓回収療法が「選択される可能性のある患者が含まれていないため、今度のさらなる検証が必要かと思われます。

入江芙美先生(H14)の研究成果がScientific Reports誌に掲載されました!

入江芙美先生(H14)がFSR研究の成果を論文発表されました。

Effects of smoking status on clinical outcomes after reperfusion therapy for acute ischemic stroke

喫煙が脳血管や心血管にとって一般的に有害であるとされています。一方で、喫煙者は非喫煙者と比べて脳梗塞発症後の再灌流療法後の臨床転帰がよいことも報告されてきており、「喫煙パラドックス」と言われてきています。その背景に、喫煙によって誘発されるフィブリンに富んだ血栓はrtPA血栓溶解療法によって溶解されやすい可能性があるとの考えです。

はたして本当に「喫煙パラドックス」が存在するのかを入江芙美先生は、Fukuoka Stroke Registryに登録された脳梗塞超急性期に再灌流療法(rtPA血栓溶解療法 and/or 機会的血栓回収術)を受けた患者さんで発症前のADLが自立していた1148名を対象に、喫煙と入院中の神経症状増悪また3ヶ月後の機能転帰良好(modified Rankin Scale 0-2)の関連を検討しました。

なお、喫煙の状態は現喫煙者(231名:脳梗塞発症6ヶ月以内の喫煙あり)と非喫煙者(917名:脳梗塞発症6ヶ月以前に禁煙、または過去に喫煙なし)の2群に分類しています。

その結果、喫煙者は非喫煙者と比較して、多変量解析で臨床背景を調整しても入院中に神経症状の改善や3ヶ月後の機能転改善となる可能性は有意に高くはなっていませんでした。臨床背景をさらに調整する目的にプロペンシティスコアマッチング解析を行っても同様の結果でした。

今回の結果から、喫煙は脳梗塞超急性期の再灌流療法の臨床転帰とは関連しないことが示され、「喫煙パラドックス」は否定されました。以前にもFSR研究から再灌流療法が施行された方を含めた急性期脳梗塞患者では喫煙が脳梗塞後の臨床転帰不良と有意に関連することを報告してきています(Stroke 2020;51:846-852)。そのため今回の結果からも禁煙が強く推奨されます。

2023年度の各専門医取得者と学位取得者を掲載しました

2023年度の各専門医取得者・学位取得者を掲載しました。

「医学生・研修医の方へ」→ 入局の案内 (研修医向け)  → 2023年度 専門医取得者 (PDF) 2023年度 学位取得者 (PDF)をご参照ください。

 

2023年度の各専門医資格また学位の取得者数は下記となっています。

総合内科専門医:6名

脳卒中専門医:1名

脳神経血管内治療専門医:1名

神経内科専門医:5名

学位 ( 博士 [医学] ):3名

スタッフ紹介を更新しました

スタッフ紹介を更新しました。

2024年4月から脳循環代謝研究室また久山町研究室に所属されています秦淳先生(H10)が医学研究院医療経営・管理学の教授にご就任なされました。

また腎・高血圧・脳血管内科の病棟医員として村谷陽平先生(H26)と池内泰仁先生(H30)が赴任し、木附信二先生(聖マリア病院 脳血管内科スタッフ医師兼任)(H27)と尾崎雄一先生(H31)が新たに大学院生となりました。

 

九州大学第2内科全体の医局説明会・懇親会、またその後に脳循環代謝研究室の懇親会を開催いたします!

2024年度の九州大学第2内科医局説明会と脳循環代謝研究室懇親会を開催します!

日時:2024年5月11日(土) 17:00〜

場所:ソラリア西鉄ホテル福岡7階「ルミナス」

参加費:無料 

2内科医局全体の説明会(医局・各研究室)の後に全体懇親会があります。

その後に会場を移動して脳循環代謝研究室の個別の懇親会を開催します。

多くの研修医の先生方のご参加をお待ちしています。必ずQRコードから参加申し込みをお願いします。

  

若手勉強会を開催しました!

2024年2月23日(金)に若手勉強会を開催しました。

下記の4演題の発表がありました。

  • 浸透圧性脱髄症候群の1例 (池内泰仁 先生、聖マリア病院、H30)
  • 当科のアピールおよび神経専門医取得に向けた講義 (横井美央 先生、九州大学病院、H26)
  • COVID-19感染後の抗MOG抗体陽性自己免疫聖脳炎の1例 (今村裕佑 先生、九州医療センター、H29)
  • 血栓回収療法のハンズオンを含めた講義 (安部大介 先生、九州労災病院、H28)

勉強会には九州中央病院、聖マリア病院、福岡赤十字病院、下関市立市民病院から4名の研修医の先生にご参加いただき、またその後の懇親会には九州医療センターから1名の研修医の先生にもご参加いただきました。

幹事の安部大介先生(九州労災病院、H28)と新田朋彦先生(聖マリア病院、H28)、ご準備ありがとうございました。

 

脇坂佳世先生(H22)の学位予備審査が開催されました!

脇坂佳世先生(H22)の学位予備審査が2024年2月21日に開催されました!

急性期脳梗塞患者の入院時BMIと脳梗塞発症3ヶ月後の機能転帰不良との関連について検討した内容を発表しました。

急性期虚血性脳卒中における体重と短期機能予後の非線形の関連

Non-linear association between body weight and functional outcome after acute ischemic stroke

 

1)脳梗塞発症3ヶ月後の機能転帰不良となるリスクは、正常体重群(BMI 18.5-22.9をreferenceとすると、低体重群(BMI<18.5)で有意に高くなる一方で、過体重群(BMI 23.0-24.9)では有意に低くなり、肥満群(BMI >25.0)では変わらないこと

2)BMIを連続的に変化させた時の機能転帰不良リスクを求めたスプラインモデルや、機械学習によるSHAP値(アウトカムに寄与する度合いを数値化したもので値が高いほど関連が強い)においても同様の結果であること

を発表いたしました。

 

主査: 二宮利治 教授 (衛生・公衆衛生学)

副査: 小川佳宏 教授 (病態制御内科学)

副査: 吉本幸司 教授 (脳神経外科学)

山中圭先生(H24)の学位予備審査が開催されました!

山中圭先生(H24)の学位予備審査が2024131日に開催されました!

薬剤誘発マウス脱髄モデルを用いて、Nox4が脱髄とその後の再髄鞘化応答に及ぼす影響について検討した内容を発表しました。

活性酸素種産生酵素NADPH oxidase 4の欠失はミクログリアおよびマクロファージの貪食能を向上させ、クプリゾン誘発性脱髄モデルマウスにおける再髄鞘化を促進する

Deletion of Nox4 enhances demyelination following cuprizone-induced demyelination by increasing phagocytic capacity of microglia and macrophages in mice 

 

①Nox4欠失マウスでは(1)クプリゾン中断後の運動機能回復と再髄鞘化応答が促進されること、(2)脱髄部位へのアストロサイトとオリゴデンドロサイト前駆細胞の集簇が促進されること、(3)脱髄分へのミクログリア/マクロファージの集簇も促進されること、(4)ミクログリア/マクロファージによるミエリンデブリス貪食が促進され栄養因子発現量も増加すること

②Nox4のmRNAの発現は、ミクログリアよりも骨髄由来マクロファージ(BMDM)で高く、エリンデブリスの貪食により上昇すること

③Nox4欠失BMDMはミエリンデブリス貪食能が高く、貪食後の栄養因子発現量も多いこと

④貪食中のNox4欠失BMDMではミトコンドリア膜電位の上昇が抑制されること

⑤Nox4欠失の培養ミクログリアも貪食能が高く、貪食後の栄養因子発現が高いこと

⑥ミエリンデブリスを貪食した後のNox4欠失BMDMの培地上清はオリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖と分化を促進すること

上記の実験結果を提示し、

1)Nox4欠失はマウスにおけるクプリゾン誘発性脱髄後の再髄鞘化や運動機能回復を促進する

2)その機序として、ミエリンデブリス貪食によるマクロファージやミクログリア内でのミトコンドリア膜電位上昇がNox4欠失によって抑制され、貪食能の向上、ミエリンデブリス除去亢進、栄養因子産生亢進によりオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化・増殖が促進されることでオリゴデンドロサイト新生(再髄鞘化)が生じたと考えられる

と結論づけました。

 

主査: 中島欽一 教授 (基盤幹細胞学)

副査: 磯部紀子 教授 (神経内科学)

副査: 神野尚三 教授 (神経解剖学)

賣豆紀智美先生(H21)の研究成果がPLoS One誌に掲載されました!

賣豆紀智美先生(H21)が臨床(主に救命救急センター)に従事しながら行なっていました研究成果がPLoS One誌に掲載されました!

Body temperature in the acute phase and clinical outcomes after ischemic stroke

 

急性期脳梗塞患者は脳梗塞サイズが大きく重症であるほど体温が上昇することを実臨床で経験することが多いかと思います。これまでにも体温の上昇は脳梗塞患者の機能転帰不良と関連することを示唆する報告がありますが、一方でrtPA血栓溶解療法や機械的血栓除去術を施行した脳梗塞患者では体温の上昇が機能転帰良好と関連するとの報告もあり、一定の見解には至っていません。また脳梗塞急性期には肺炎や尿路感染症などの併発した感染症が発熱の原因となることもあり、体温の上昇と脳梗塞後の機能転帰の関連は不明確でした。

そこで賣豆紀智美先生は、Fukuoka Stroke Registry に登録された発症24時間以内の急性期脳梗塞患者で発症前のADLが自立しており、発症時に感染症に罹患していなかった7177例を対象に、腋窩で計測した体温を入院後7日間連続して計測し、その平均体温と入院中の神経症状軽減、神経症状増悪、3ヶ月後の機能転帰不良(modified Rankin Scale 3-6)、全死亡との関連を検討しました。

なお平均体温はQ1〜Q5の5分位に分類しています:Q1(35.1-36.5℃)、Q2(36.5-36.7℃)、Q3(36.7-36.8℃)、Q4(36.8-37.1℃)、Q5(37.1-39.1℃)。

その結果、脳梗塞発症後の感染症併発やCRP値を考慮しても

  • 平均体温が高くなればなるほど、入院中に神経症状が改善する可能性が低くなり、また退院までに神経症状が増悪する可能性が高くなること
  • 平均体温が高くなればなるほど脳梗塞発症3ヶ月後の機能転帰が不良となること
  • 平均体温は入院中死亡や脳梗塞発症3ヶ月後までの全死亡とは関連しないこと
  • 特に発症3日以内の早期の時期に37℃よりも高い体温を示した患者は37℃以下の患者と比較して3ヶ月後の機能転帰が有意に不良であること
  • 発症7日間で37℃よりも高い体温を示した期間が長くなればなるほど3ヶ月後の機能転帰が不良となること

を見出しました。

また脳梗塞急性期に感染症を併発した患者を除外しても、また37.5℃以上の患者を除外しても同様の結果を認めています。

今回の結果から、脳梗塞急性期の体温上昇は脳梗塞後の転帰不良と関連することが示されました。これまで脳梗塞動物モデルでは低体温が脳梗塞後の機能改善をもたらすことが示されてきていますが、ヒトにおいて脳梗塞後の体温低下療法が脳梗塞後の機能転帰を改善させる確固としたエビデンスはありません。今後のさらなるエビデンスの集積が待たれます。

脇坂佳世先生(H22)の大学院での研究成果第2弾がPLoS One誌に掲載されました!

脇坂佳世先生(H22)が大学院の頃から引き続き検討してきていました研究成果がPLoS One誌に掲載されました!

Association between abdominal adiposity and clinical outcomes in patients with acute ischemic stroke

 

脇坂佳世先生は以前に「BMIは脳梗塞発症後の短期機能転帰との間に非線形性の関連があり、正常体重(BMI:18.5-22.9)と比較すると、機能転帰不良となるリスクは低体重(BMI<15.5)で増加し、過体重(BMI:23.0-24.9)で減少はするものの、肥満(BMI≥25.0)では関連を認めない」ことを報告しています(Sci Rep 2023;13:8697)。

BMIは肥満の指標として使われることが多いのですが、BMIは体重を指標としているため、脂肪量だけでなく筋肉量をも反映します。筋肉量は脳卒中後の独立した機能予後良好因子であることが知られていますので、脂肪量と筋肉量は脳卒中後の機能回復に対して異なる作用を示す可能性があります。そのためBMIが脳卒中後の機能転帰の予測するのには最適ではないことも考えられます。

そこで脇坂佳世先生は肥満の指標として腹囲着目して、Fukuoka Stroke Registry に登録された発症7日以内の急性期脳梗塞患者で発症前のADLが自立していた11989例を対象に、入院時の腹囲と3ヶ月後の機能転帰不良(modified Rankin Scale 2-6)また全死亡との関連を検討しました。

なお腹囲はQ1〜Q4の4分位に分類しています:Q1(女性 ≤74.3cmm、男性 ≤78.9cm)、Q2(女性 74.5-81.8cm、男性 79.0-84.9cm)、Q3(女性 82.0-88.8cm、男性 85.0-90.8cm)、Q4(女性 ≥89.0cm、男性 ≥91.0cm)。

入院時のBMIを含めた虚血性脳卒中機能予後不良因子と報告されている諸因子を考慮して検討した結果、

  • 機能転帰不良となるリスクはQ1群と比較してQ2群とQ3群で有意に低下したが、Q4群では有意差を認めず(p=0.05と傾向は認めています)、腹囲と機能転帰不良の間に非線形性の関連(L字型)を認めました。
  • さらに腹囲と機能転帰不良の関連にインスリンが関与していないかを検討するために、インスリン治療を受けていなかった虚血性脳卒中患者に限定して検討すると、空腹時血中インスリン量、インスリン分泌能、インスリン抵抗性をも加味して検討しても同様の結果でした。
  • 上記の腹囲と機能転帰不良の関連は、とくに非糖尿病の患者群で強く認めました。
  • 一方で腹囲と3ヶ月後までの全死亡の間に有意な関連を認めませんでした。

今回の結果から、腹囲は脳梗塞後の短期機能転帰との間にBMIとは独立して関連することが示されました。観察研究ですので脂肪量を反映する腹囲がどのようにして虚血性脳卒中の機能予後に影響を及ぼすのか、そのメカニズムは解明できていません。今後のさらなるエビデンスや基礎研究の結果の集積が待たれます。